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中澤 隆です
視覚障害を持ちながらパラトライアスリートとして活動しています。
現在の挑戦は、アイアンマン世界記録(11時間03分)を超えること。
Ironman JAPAN 南北海道 2025 振り返り
前々日
大会に向けて、まずはアスリートチェックインと競技説明会。
いよいよ本番が近づいてきた実感が高まり、気持ちが少しずつ引き締まっていく。
前日
午後からは嵐のような雨と強風。
本当に明日はレースができるのか、不安になるほどの天候だった。
T2にランギアバッグをセットし、T1にバイクギアバッグをセット。
準備は淡々と進めながらも、試泳は荒天のため中止。
波を確認することができず、翌日への不安を抱えたままホテルへ戻った。
当日
午前3時30分に起床。軽く朝食を済ませ、4時20分にホテルを出発。
4時30分のバスに乗り込み、レース会場へ向かう。
会場に着くと、前々日や前日に会えなかった仲間たちと挨拶を交わし、気持ちを整える。
その後、バイクに補給食をセットし、トイレを済ませて試泳へ。
空は昨日とは打って変わって晴れていたが、依然として風は強く、波も非常に高い。
苦手な波がチャプチャプと押し寄せ、試泳の時点で緊張感が増していく。
それでも、心を落ち着け、集中を高めてスイムスタートラインへ。
「いよいよ本番だ」という気持ちとともに、長い一日の幕が開いた。
スイム
僕は視覚障害者のためPCオープンカテゴリー、スタートは6時25分。
一般の選手よりも5分早いスタートでした。
1周目
スタート直後は、まず気持ちを落ち着けて冷静に泳ぎ始めることを意識。
しかし、やはり波がチャプチャプと絶え間なく押し寄せ、泳ぐこと自体が難しい状況。
呼吸を合わせようとした瞬間に波が重なり、思わず海水を口に含んでしまう場面もありました。
第一ブイを越え、折り返しに差し掛かると、先頭集団が僕を目掛けるように突っ込んでくる。
ガイド側にも僕の側にも他の選手がいて、接触しながらの“バトル”のような展開に。
それでも冷静さを失わず、落ち着いて対応しながら1周目を終えました。
2周目
2周目はテンポを意識的に上げ、集中して泳ぎを続けました。
しかし第一ブイに差しかかったところで、ガイドに呼び止められる。
ライフセーバーから「イエロー、イエロー」と声がかかり、ガイドが状況を確認。どうやらブイが流されてしまっており、想定よりも余分に泳ぐコース取りになったようです。
再スタートを切ってからも、折り返し地点では再びバトルに巻き込まれる展開に。
それでもガイドと呼吸を合わせながら、強い波と接触の中で前に進む。
結果として、苦手なチャッピーな波をなんとか乗り越え、大きなトラブルなくスイムをフィニッシュすることができました。
バイク
トランジションでは、目が見えにくいため時計やサイコンを直接確認することができません。
そこで骨伝導スピーカーを装着し、Garminとペアリングして情報を音声で受け取りながらスタートしました。
本来、Garminのトライアスロンモードは手動で種目を切り替える設定にしていたのですが、スイム中に誤ってボタンが押されてしまったのか、あるいは僕自身が操作を間違えたのか…原因は分かりません。
結果的に、バイクを始める時点で表示が「ランモード」になってしまっていました。
そのため、骨伝導からは400mごとにラップ通知や心拍数などの情報が入り、少し違和感を覚えながらのライド。
さらにバイク後半では時計のバッテリーが切れてしまい、最後は計測なしの状態で走り切ることになりました。
途中、2〜3回はトイレにも立ち寄りながらのバイク。
昨年は同じ視覚障害者の選手が参加していたので、周回ごとに姿が確認できるのが励みになりましたが、今年は自分一人。見える仲間がいない分、完全に「自分との戦い」になりました。
それでも最後まで集中を切らさず、無事にバイクをフィニッシュ。
トラブルや孤独感と向き合いながらも、確実に前へと進んだ大きな一歩となりました。
ラン
ランは、20kmまでは大きなトラブルもなく、淡々と前へ進むことができました。
「ここからが本当の勝負だ」と自分に言い聞かせながら、リズムを崩さないように集中していました。
しかし、20kmを過ぎたあたりから股関節に違和感が出始めました。最初は「少し重いかな」程度だったのですが、走るごとに徐々にその感覚が強まり、30km手前には違和感がはっきりとした痛みに変わっていました。
32km地点までなんとか我慢を続けましたが、さすがに無理を押して走り続けることは難しく、そこからは「1km走って、1kmパワーウォーク」というスタイルに切り替えることにしました。
走っては歩き、また走っては歩き…決してスムーズなペースではありませんでしたが、一歩一歩を積み重ねていくしかありませんでした。
苦しい時間が長く続きましたが、それでも沿道の声援や、ここまで積み重ねてきた自分の練習の日々を思い出すことで、心を折らさずに前進することができました。
「どんな形であれ、最後まで自分の力でフィニッシュラインに立つ」――その気持ちだけを胸に走り続けました。
結果的に、計画していた走りとは程遠い内容になってしまいましたが、1kmずつ積み上げたその過程こそ、今回の大きな収穫だったと思います。
そして、何よりも最後まで諦めずに進み続けたことで、無事にフィニッシュすることができました。
このランで得られた経験は、次への挑戦に必ずつながるはずです。
悔しさも、達成感も、全てを糧にしてまた前へ進んでいきたいと思います。
まとめ
今回のアイアンマンジャパン南北海道は、ただのレースではなく、自分自身と深く向き合う一日でした。大会に向けて何ヶ月も準備を重ねてきましたが、当日を迎えてみると、想定通りにはいかないことばかり。それでも一歩ずつ、気持ちを切らさずに進み続けた先にあったゴールは、単なる「完走」という言葉以上の意味を持っていました。
今回のレースを通じて強く感じたのは、「結果」よりも「過程」にこそ価値があるということです。思い通りにいかない展開やトラブルは多々ありましたが、その度に立ち止まり、工夫し、気持ちを立て直しながら進んでいく。その積み重ねこそが、アイアンマンの本質なのだと思います。
また、今回も多くの方に支えられました。応援してくださった方々、声をかけてくれた方々、一緒に戦ってくれた仲間やガイド、そしていつも見守ってくれる家族。本当に一人では立てなかった舞台であり、挑み続けられるのは「支えてくれる人たちがいるからこそ」だと改めて実感しました。
ゴールラインを越えた瞬間にこみ上げた感情は、悔しさもあれば安堵もあり、そして何より「また挑戦したい」という強い気持ちでした。どんなに準備をしても完璧なレースは存在しない。けれど、その不完全さの中で自分がどう動き、どう立ち上がるか――そこにこそ挑戦する意味があります。
この経験を糧に、さらに強く、さらに遠くへ。まだまだ道の途中ですが、この積み重ねが必ず次につながると信じています。
Ironman Japan 南北海道2025、本当に多くの学びと感謝を胸に、次の挑戦へ進んでいきます。
写真は、今年から新しく始まった PCオープンの表彰式 でいただいた盾です。
昨年までは表彰がなかったので、こうして形として残るものをいただけたのは本当に嬉しい瞬間でした。
posted by 2025.09.20 | メンバー